鉄鋼材料の特徴の一つは、そのリサイクル性にあり、土木、建築、造船、自動車、家庭電気製品、容器などに使われたものは、鉄スクラップとして回収される。鉄鋼蓄積量が増えると、通常、老廃スクラップの発生量が増加する。スクラップを鉄源とする電炉鋼の粗鋼生産全体に占める比率は長期的に上昇傾向にあり、1996年には世界の粗鋼生産の約33%に達した。鉄スクラップの溶解工場へのリサイクルを模式的に図に示した。全世界で1993年には、4億5,600万トンの鉄スクラップが発生した。内訳は、老廃スクラップ(2億7,200万トン)、自家発生スクラップ(8,800万トン)および加工スクラップ(9,600万トン)である。一方、より高い品質や機能の鉄鋼材料の開発にともない、鉄鋼材料と非鉄金属あるいは非金属材料との組み合わせ使用が増加してきた。仮に現在の状況が今後も続くとすれば、20年後には老廃スクラップ中に含まれるCu、Sn、As、Sb、BiとくにCu、Snのような非揮発性不純物元素(トランプエレメント)が、リサイクルスクラップ中に1.3倍にまで濃化されると推測されている。

表面処理鋼板の使用量は、主に自動車産業で亜鉛めっき鋼板を多量に使用するようになったので、最近10年間に増加している。1994年に生産された金属めっき鋼板はEUと日本でそれぞれ1,950万トンと1,600万トンとなっている。その内訳は、ブリキがそれぞれ400万トンと200万トン、電気クロムめっき鋼板が70万トンと200万トン、主として亜鉛めっき鋼板であるその他めっき鋼板が1,480万トンと1,200万トンとなっている。めっき材料中の有機物は有害なダイオキシンを発生させ、Zn、Pbのような揮発性不純物元素は、金属あるいは金属酸化物の有毒ガスの原因となる。

自家発生スクラップや加工スクラップは、その化学成分や品質がよくわかっているので、リサイクルに際して大きな問題にはならない。問題は老廃スクラップで、その発生量は日本では西暦2000年には鉄鋼蓄積量(13億トン)の約2.7%(3,700万トン)に達すると予測されている。これは、年間の粗鋼生産量(1億トン)に要する鉄源の約1/3を老廃スクラップが占めることを意味している。

鉄スクラップのリサイクルは、6Gで議論するように、上述の不純物元素による制約を除いては、エネルギー消費とCO2排出を削減するのにかなり貢献している。

不純物元素除去に関しては、物理的に混合している銅線や軸受け合金などの不純物元素をシュレディングプロセスを強化して除去する方法、あるいはめっきされているZnやSnの不純物元素を電解あるいは真空蒸溜により除去する方法が工業的に稼動している数少ない方法である。しかし、鋼中の合金化した不純物元素を取り除くことのできる経済的な方法は今のところ工業化されていない。これまでに多くの試みはあったが、いずれも経済性および採算性に問題があり、工業化には至っていない。

鉄スクラップの品質変動を防止しつつ、鉄鋼製品の品質維持が可能な鉄源のリサイクルを将来さらに促進するためには、解決すべき多くの問題が残っている。これらの問題は将来の製鉄プロセスによって解決されるべきものである。