鉄鋼の製造においては、鉄鉱石を還元するために石炭中の炭素を利用する。還元剤として石炭の利用が不可欠である以上、鉄鋼業の最大の温暖化対策は、石炭をはじめとするエネルギーの消費を節減することである。

コークス炉、高炉、転炉などの鉄鋼の製・精錬工程では、高温の熱エネルギーや高圧が生じており、それらは蒸気や電力として回収可能である。その実用化の代表例に、コークス炉における乾式消火と、高炉における炉頂圧発電がある。乾式消火は、水の代わりに窒素ガスでコークスを消火し、高温のコークスが持っている顕熱を有効に回収してボイラーに利用する。炉頂圧発電は、高炉の排ガスが持っている圧力を利用してタービンを回し発電を行う。転炉の排ガスが持っている顕熱も排ガスボイラーによって有効に回収する。さらに排ガスを圧延工程に送り、加熱炉や焼鈍炉の燃料ガスとして再利用している。

このほか、省エネルギー効果の大きなものに、生産工程の省略・連続化がある。この例としては、(i)造塊・分塊圧延から連続鋳造への転換により、鋼塊を均熱する燃料と分塊圧延機の電力の低減、(ii)連鋳スラブの熱片装入や直送圧延による加熱炉燃料の節減、(iii)鋼板のバッチ焼鈍から連続焼鈍への移行などがあげられる。これらの工程変更で鉄鋼生産に消費されるエネルギーの大きな節減が可能となった。エネルギーの回収・有効利用や工程の省略・連続化は、今後とも鉄鋼業にとって重要な課題である。
スクラップを原料とする電気炉による製鋼法で必要なエネルギーは、高炉・転炉法のそれよりはるかに少ない。これは高炉・転炉法の全所要エネルギーの約70%を占める鉄鉱石の還元に要するエネルギーが不要となるためである。したがって、スクラップが豊富な国では電気炉法が有効である。この問題はのちに6Fと6Gで検討する。

さらに、鉄鋼製品の品質・特性の向上も、省エネルギーに貢献している。たとえば、自動車用鋼板の高強度化は、車体重量の軽減を通じて、自動車の燃費節減に役立っている。また、電力の、発電から消費に至る過程の各種機器にひろく使用されている鉄鋼材料も、省エネルギーに貢献している。たとえば、ガスタービン発電では、利用するガス温度が高いほど発電効率が上がるが、このガス温度を決めているのはタービン翼や回転軸に使われる材料の耐熱性であり、耐熱性の良い超合金、ステンレス鋼や鉄鋼材料の開発が発電効率の向上につながっている。電磁鋼板の鉄損の低下による電力の変換効率の向上については、すでに述べたとおりである。耐候性鋼、表面処理鋼板などの耐食性向上、軸受鋼の寿命延長なども、それらを用いた設備のライフサイクルが延びることによって省エネルギーに貢献している。