鉄鋼の加熱・溶解炉や製・精錬炉および溶銑・溶鋼の移送に使う容器は、耐火物で内張りする。これらの炉や容器が連続使用できなくなる主な原因は、耐火物の損傷にともなう補修や取り替えである。すなわち、耐火物の寿命が炉や容器の寿命を決めている。耐火物側から見れば、鉄鋼製造のための用途は、単に高温という以外に、急激な温度変化に耐える耐熱衝撃性、大きな運動量を持った衝突的な流れに耐える強度や耐摩耗性、溶銑・溶鋼・スラグや各種フラックスによる侵食に耐える化学的安定性、などが要求される極めて過酷なものである。耐火物は、融点が高く、断熱性があり、スラグやフラックスと反応しにくい化学的に安定した物質—マグネシア、アルミナ、シリカなど—を基本組成としたものが多い。これらにバインダーを加えたままのものが不定型耐火物であり、加圧・成型・焼成したものが耐火れんがである。

図は、1トンの粗鋼を生産するのに使用される耐火物重量(耐火物原単位)の日本での推移を示している。1970年以降耐火物使用量は60%も減少している。この減少の2大原因は、平炉から転炉への転換や、連続鋳造法の普及による造塊法の減少という精錬・鋳造プロセスの変化と、耐火物の品質向上および使用技術の進歩による寿命の延長である。

品質向上の例として、高炉では、炉底カーボンれんがへの珪素添加によるスラグと鉄の浸入の減少、アルミナ添加による溶損の改善などがあり、炉命延長に大きく貢献している。また、現在、転炉や電気炉の内張りは、マグネシアに代わってマグネシア・カーボン焼成れんがが主流である。これは、マグネシア本来の塩基性スラグや溶融金属に対するすぐれた耐食性を残しながら、欠点であった耐熱衝撃性を、カーボンを加えて大幅に改良した複合材料である。さらにこれを高温還元性雰囲気で焼成することにより、気孔率を下げて、スラグや溶鋼の侵入を防いでいる。転炉では、このような耐火物自体の品質向上に加えて、関連技術の進歩が耐火物の長寿命化に役立っている。たとえば、炉内の各位置にそれぞれ最適な組成のれんがを使用するゾーン・ライニング、炉壁内面へのスラグによるコーティング、転炉操業技術が進歩し的中率が向上したため無倒炉操業が可能となり、耐火物への熱衝撃が減少したこと、などがある。取鍋や連続鋳造のタンディッシュでは、流し込んだり、吹き付けて施工する粉体状の不定形耐火物を用いる。不定形耐火物は、製造時、施工時とも機械化、自動化が容易なことから使用量が増加しており、日本では1988年以降耐火れんがの使用量を超えるに至っている。

取鍋やタンディッシュの耐火物は冷却と再加熱により熱応力が増大して割れやすくなるが、これらを熱い状態のままで繰り返し使用することにより、耐火物の割れを防止でき、寿命が伸びる。溶損や割れ剥離などの損傷が見つかった個所へ耐火物を熱間で吹き付ける技術と、熱いタンディッシュを修復・保全するロボットによる自動補修技術、の開発により、熱間で取鍋やタンディッシュを繰り返し使用できるようになった。

タンディッシュから鋳型に溶鋼を流し込む浸漬ノズル用の耐火物は、溶融シリカ質から耐食性の高いアルミナ・グラファイト質に変わっている。このほかの設備に用いられる耐火物も、それぞれの使用環境に適合した、より高品質な耐火物をめざして、きめ細かい開発が続いている。