鉄鋼の製・精錬をひとことで表現すれば、鉱石から鉄をとり出し、不用、有害な元素を取り除き、必要な元素を添加し、必要な形状を有する清浄で均質な材料を得る工程ということである。これは物質間の化学反応を利用することによって達成される。

化学反応を取り扱う学問としては、反応の進行する方向や平衡状態を取り扱う熱力学と、反応の機構や平衡に到達する速度を論じる反応速度論がある。さらにその前提として、反応に関与する物質の構造と、それにもとづく物性値が、できるだけ詳しく知られていることが必要である。これらをさらに理解するためには、統計力学や統計熱力学の知識が必要である。

鉄鋼の製・精錬工程の最も重要な特徴は、溶銑、溶鋼や溶融スラグなどの融体を多量に取り扱うことである。このために、高温での熱や物質の移動、流体の運動を取り扱う学問の支援が不可欠である。

成分の偏析や割れを防いで良好な鋳片を得るには、溶鋼からの結晶の晶出・成長と、それにともなう熱の移動や濃度の変化、高温における材料の力学的挙動に関する学問などが必要である。

最近はコンピューター工学が進歩し、物理・数学モデルをコンピューターシミュレーションと結び付けて、机上で実験ができるようになった。この技術は、鉄鋼製造プロセスの解析と設計、新しい合金系を設計するための状態図の作成などの分野で進歩した。この分野に関するデータベースが改善され、鉄鋼製造プロセスに関する理解が深まるにつれ、このアプローチは鉄鋼製造プロセスをさらに進歩させるであろう。

今後さらに製・精錬の技術が発展するためには、これら関連する学問自身も進歩することが求められる。