鉄鋼の製・精錬では、溶銑、スラグ、ガスなどのいろいろの相がかかわる。これらの相は、単体や化合物から成る場合もあるが、むしろ多成分から成る均一な相、すなわち溶体であることが多い。溶体の自由エネルギー、エンタルピー、エントロピーなどのような容量性状態量は、温度、圧力のほかに溶体の量と組成によって変化するが、その変化の仕方は、溶体成分原子間の相互作用のため、単体や化合物のような純物質の機械的混合のように簡単ではない。そこで、溶体の容量性状態量の熱力学的諸関係を表わすのに(1)式のように定義された部分モル量が用いられる。

(1)式の偏微分係数の添字は、それらが不変であることを示す。は、定温・定圧のもとで、他成分の量を変えずに、成分のみを微少量加えたときの状態量Mの変化量とみなすことができ、これを成分の部分モル量という。

部分モル量の中で、部分モル自由エネルギーは溶体の活量などを論ずるうえで極めて重要であり、とくにこれを化学ポテンシャルと呼び、(2)式のようにμで表わす。

また、溶体成分の部分モル量とその成分の純粋状態における状態量の差を、その成分の相対部分モル量と呼び、(3)式のように表わす。

溶体に関する化学反応の平衡は、それら反応成分の活量によって支配されるので、製錬反応の平衡や溶体成分の反応性を考察するには、それら成分の活量の知識が必要である。溶体中の成分の活量は、溶体成分のフガシティとその成分の標準状態におけるフガシティとの比(成分の蒸気圧が小さいときにはそれらの蒸気圧の比)として(4)式のように定義される。

ところで活量の基準ならびに標準状態のとり方は任意であってよく、鉄鋼の製・精錬では一般に(5-a)、(5-b)、(5-c)式に示すような標準ならびに標準状態を用いる。図は溶体成分の活量と濃度との関係を示したもので、図中、A、B、Cがそれぞれ(5-a)、(5-b)、(5-c)式の基準による活量の標準状態を示している。

実在溶体成分の相対部分モル自由エネルギーと活量との間には(6)式の関係が成り立つ。

実在溶体成分の活量は、ラウルあるいはヘンリーの法則からずれるが、このずれの度合いを示すのに(7-a)、(7-b)、(7-c)式で定義される活量係数が用いられる。

多成分系溶体成分の活量や活量係数を考察するためには、相互作用係数や相互作用パラメーターなど、溶体熱力学におけるさらに詳細な知識が必要である。