固体炭素を還元剤として、酸化鉄である鉄鉱石を還元する場合、炭素は逆に酸化されて一酸化炭素や二酸化炭素となる。固体炭素、二酸化炭素と一酸化炭素との間には図の(1)式で表わされる化学反応が存在する。

図の曲線(1)は、この反応の平衡関係を示したもので、ブードア平衡と呼ばれ、ガス組成がこの曲線より下側にあると、一酸化炭素が生成する方向に反応が進む。この反応は、炭素溶解反応またはソリューションロス反応と呼ばれる。1,200K付近では、酸化鉄の還元によって発生する二酸化炭素は、この反応によって一酸化炭素に変わるので、ガスの還元能力は維持されることになる。反対に、ガス組成が曲線(1)の上側の領域にある場合は、平衡論的には、一酸化炭素が分解して炭素が析出する炭素析出反応が起こる。しかし、この反応の速度は極めて遅く、低温、低一酸化炭素濃度の領域では事実上進行しない。実際に炭素の析出が起こるのは、強い触媒作用を持つ金属鉄の共存下で、かつ高温、高一酸化炭素濃度の領域である。この領域は図の斜線部に相当する。

図には、一酸化炭素および二酸化炭素と共存して安定的に存在する、マグネタイト、ウスタイトおよび金属鉄の領域も示されている。1,000K以上の高温では、一酸化炭素と二酸化炭素が平衡する組成で、マグネタイトから金属鉄までの還元が起こりうることがわかる。

このような平衡論による検討によって、望ましい方向の反応が可能かどうか、また、可能であるために満たすべき条件についての答が得られる。実際に反応を制御するためには、こうした検討のほかに、反応速度論や輸送現象論にもとづいて、反応を律速している機構の解明、熱や物質の移動状況の解析を行う。