自動車用薄鋼板は、プレスによる成形加工後、溶接によって組み立てられる。プレス加工では、デザインによっては非常に厳しい加工を受ける部分が生じ、成形性の悪い材料を使うと割れたり、しわが発生したりする。成形性の良い材料とは、塑性変形時の大きなひずみに耐えられる材料であり、簡単には、引張試験の伸びの値の大きさで評価できる。高強度材料は塑性変形を起こしにくいので、図のように強度が高まるほど成形性は悪くなるのが一般的傾向である。

自動車の車体用内板、外板などのように成形性が重視される部品では、低炭素鋼や極低炭素鋼などの低強度材しか使用できないが、厳しい成形が必要でない部品には高強度の高張力鋼板(ハイテン)を使用できる。したがって真の意味の材料開発とは、強度と成形性のバランスを改善するものでなければならない。高強度と成形性を兼ね備えた材料の開発が、今日までの自動車の車体の軽量化に大きく寄与してきた。そして今も、一般用冷廷鋼板を基本として、強度を低下させずに成形性を向上させる試みや、各種高張力鋼板の成形性を維持しながら強度をさらに高めるための開発が行われている。

この教材で述べている低強度材、高強度材という呼称については、すべての鉄鋼材料に対して、共通の値にもとづく区別ではなく、それぞれの用途ごとに常用されている強度を基準にした区別である。自動車用薄板の場合には、厳しい成形性が要求されるため、ハイテンでも、その強度は図に示されるとおり、建築、橋梁等に使われる構造用厚板などに比べると低い値になっている。