図は、理論から推定される各強化機構別の強度の上限値と、種々の構造物に実際に使用している鉄鋼および非鉄金属材料の強度を示している。

構造用材料では、材料が高強度化するほど構造物が軽量化できることから、強度が最も重要な特性であるが、材料の強度だけが使用材料を決める要因ではない。その理由は、耐食性や加工性など強度以外の特性が材料決定の要因となったり、加工、組み立てによって構造物の特性が材料の特性と異なることがあるからである。

たとえば、
(a) 鉄鋼材料を建造物や機械、自動車などに組み立てる場合には、曲げやプレスなどの加工や溶接による接合が行われる。この過程で割れなどの欠陥を生じないことが重要である。一般に鉄鋼材料は、強度の増加とともに加工性や溶接性は低下する傾向にある。
(b) 鉄鋼材料の破壊応力は、一軸引張試験で求められるいわゆる静的強度が唯一の値ではない。材料は、ある条件下では、静的強度よりもかなり低い応力で破壊する。よく知られた例として、繰り返し荷重下での疲労破壊、高温定応力下でのクリープ破壊、低温での脆性破壊、水素による遅れ破壊などがある。
(c) 組み立て時に、冷間加工を受けた部分や溶接された部分は、その特性が素材のそれとは変化し、一般に劣化する。
(d) 高強度材料を用いることによって設計板厚は薄くなるが、構造物としての剛性が不十分になる場合がある。
この場合には補強材を使用することになり、重量はあまり軽減できない。現実の構造物では、これらの要因を考慮したうえで使用材料の強度を決定している。