鉄鋼材料の強度を増加させる機構には (a)固溶体硬化 (b)析出硬化 (c)加工硬化および(d)細粒化による硬化がある。このうち固溶体硬化、析出硬化、加工硬化は強度を増加させる一方、延びやねばり強さを低下させる。これに対し、細粒化による硬化は、このような悪影響がないという点で最もすぐれている。

細粒化による硬化と結晶粒径の関係は、ホール-ペッチ(Hall-Petch)の関係で表わすことができる。図は同一成分で種々の粒径のステンレス鋼をつくって実測したときの、粒径と強度の関係である。粒径が0.5マイクロメートルより小さい範囲で、強度の増加率が小さくなる理由は、小角粒界を有するサブグレインは通常の結晶粒ほど強度増加には寄与しないと説明されている。

構造用鋼では、通常の熱間圧延のままでの粒径は20マイクロメートル程度である。熱間圧延条件やその後の冷却条件を制御することによって10〜5マイクロメートルの粒径が得られる。さらに焼入れ−焼戻し処理を行えば、粒径を5〜1マイクロメートルに微細化できるが、これが現在工業的に得られる粒径の限界である。図によれば、粒径を20マイクロメートルから1マイクロメートルに微細化させることにより、降伏応力は約350メガパスカル増加する。この増加量は、普通鋼でいえば降伏応力が約2倍になったことに相当する。高強度化のためには、工業的に利用可能で、一層の細粒を得る技術の開発が待たれている。そのためには拡散、再結晶、粒成長、析出、変態など金属の基礎的現象についての一層の理解が必要である。