鉄鋼の構造用、機能用材料としての特性は、いまだ十分には開発されておらず、さらに向上する可能性が大いにある。このような例を1章に示したが、今後期待される鉄鋼材料開発の方向について以下に述べる。

まず、不純物元素や非金属介在物を限りなく減らすことにより、延性、靭性、疲労強度、耐食性が格段に向上する。高純度鉄の特性はいまだ十分明らかではなく、この解明は、鋼の諸特性を支配する機構を知り、特性の改善や新しい特性を与えるためのヒントとなることから、極めて重要である。また、結晶粒度や、方位と組織の精密制御によっても、強度、耐摩耗性、靭性、電磁特性の一段の改善が期待される。新しい合金組成や化合物の利用により、これら諸特性が向上する可能性もある。このほか、表面の処理・改質が新しい機能、たとえば高度の耐食性、高硬度、潤滑性、耐汚損性、接着性に加え、色彩や装飾性に新しい分野をひらくこともありえよう。さらに競合材料との複合化が進み、新しい特性も生まれてこよう。

鉄鋼材料は組立加工業にとっては素材であるが、近年では、それが素材にとどまらず、組立加工プロセスを合理化する方向にも進歩し始めている。たとえば加工後の塗装が不要なプレコート鋼板、加工時の塗油と加工後の脱脂が不要な潤滑鋼板、断熱施工が不要な耐火鋼などがあげられる。今後は資源・エネルギーの保全と環境改善のため、リサイクル性を考慮した材料開発も進むであろう。

このような特性の向上のほかに、品質・寸法の変動を極小化することも重要である。これらは、いずれも製造プロセス技術の進歩によってはじめて実現されるが、一方、プロセス技術の進歩は材料特性と品質要求の高度化によって促される。このように材料特性の向上と製造プロセス技術の進歩は相互に影響し合う関係にある。