粉鉱や塊鉱を、1,273K(1,000℃)前後の比較的低温で、変性天然ガスにより固相のまま還元すると、直接還元鉄(DRI−Direct Reduced Iron)が得られる。粉鉱を流動層で還元するFIOR法および炭化鉄法、ペレットと塊鉱の還元にレトルト型の炉を用いるPurofer法、HYL-I法、HYL-II法、および向流シャフト炉を用いるミドレックス法、HYL-III法などがある。このうちHYL-I法、ミドレックス法、HYL-III法などが工業化に成功したが、主流はミドレックス法、HYL-III法であり、ミドレックス法が最大のシェアを占めている。DRIは1996年に3,270万トン生産された。

ミドレックス法のプロセスフローを図に示す。変性ガスのH2/CO=1.6、温度1,173K(900℃)、向流シャフト炉は炉内圧100キロパスカル、還元所要エネルギー2.5ギガカロリー/トンDRIである。排ガスの一部は天然ガスに混ぜて改質し、残りは改質炉用の加熱燃料として利用する。HYL-III法は変性ガスのH2/CO=3、温度1,203K(930℃)、向流シャフト炉は炉内圧450キロパスカルで、還元所要エネルギーはミドレックス法に近い。いずれも還元は吸熱反応なので、炉の操業を高温で行うほど生産性は上がるが、ペレットや塊鉱が焼き付く温度までは上げられない。還元率は上限約95%、炭素含有量は2.5%程度までである。

プラントの立地は天然ガスの産地に限られ、そこでは必ずしも鉄鋼の需要が大きくはなかった。また、スポンジDRIは活性比界面積が大きいので、酸化しやすく、空気や水、とくに海水に触れると発火するので、取り扱いや輸送がむずかしく、大量の輸出は経済的に成り立たなかった。このため、DRIの生産は伸び悩んでいた。ところが、1984年にDRIを成形し活性比界面積を減らすホットブリケット装置が開発・工業化され、これが向流シャフト炉下部に取り付けられて発火のおそれが減少したので、DRIの取り扱いや輸送が格段に楽になり、電気炉製鋼時のスクラップの代替として使えるようになった。さらに、ミニミルが薄板分野に進出するにつれて、DRIは単にスクラップ代替にとどまらず、Cu,Sn,As,Sb,Bi,Zn,Pb等の不純元素の少ない良質の鉄源として、深絞用などの高級鋼の原料に使われ始めた。

IISI(国際鉄鋼協会)統計によると、世界の直接還元鉄生産量は、1984年の910万トンから1996年には3,270万トンへと約3.6倍に増加した。この間、世界の銑鉄生産量は5億トン程度とほぼ横ばいであり、世界の銑鉄生産に占める直接還元鉄生産の比率は2%から6.5%へと高まった。

還元剤を天然ガスから石炭に置き換えることにより、直接還元プロセスの立地が地理的に制約されるのを緩和しようとしている。石炭を使い、塊鉱、ペレット、砂鉄をロータリーキルンで還元するSL/RNプロセスは商業生産に入っている。しかしこのプロセスは熱損失と設備規模が相対的に大きいので、200万トン/年の生産にとどまっている。新プロセスのFASTMETでは、微粉炭を混合したペレットを回転炉で短時間に還元し、将来の商業生産を目指している。なお、1997年の全世界のDRI生産量はさらに増加する見込みである。