コンピューターグラフィックスは、現在各分野でますます広く利用されるようになっている。鉄鋼の分野においても、温度や応力の分布のほか、材料中の異種元素の種類や量の表現などにコンピューターグラフィックスは活用されてきた。ここでは多結晶体の各結晶粒の方位の表現にコンピューターグラフィックスを用いた例を示す。

写真は、3%珪素鋼を冷間圧延後加熱して得られた再結晶粒の方位を結晶粒ごとに測定し、方位別に色別表示したものである。写真では隣り合う結晶粒の間の方位差についても層別され、方位差が大きいほど結晶粒界が太く表示されている。黒の部分は方位の測定結果が得られなかった領域である。(a)は圧延面に平行な結晶粒の面方位を示し、(b)は圧延方向に平行な結晶粒の方向を示している。この結果は、(110)面が圧延面に平行し、[001]方向が圧延方向に向いた再結晶粒が多いことを示している。

冷間圧延によって、結晶中には転位の導入という形で、余分のひずみエネルギーが蓄積される。その後の加熱による原子の拡散にともなって、転位の消滅が可能となり、余分のひずみエネルギーが解放され、ひずみのない新しい結晶粒が生成する。これが再結晶と呼ばれる現象である。材料の状態や冷間圧延の条件によっては、再結晶した結晶粒の方位がある方向にそろうことがある。これは集合組織と呼ばれる。写真でも、各結晶粒の方位はランダムでないことがわかる。

鉄の特性の中には、弾性率や磁化の容易さなどのように結晶方位に依存する特性がある。このような特性については、好ましい集合組織を形成させることによって、特性の改善が可能である。これは方向性電磁鋼板で実用化されている。