現在実用化されている金属材料のほとんどは多結晶であり、結晶粒界を含んでいる。結晶粒界は余分のエネルギーを持っているために、原子の移動が可能な温度に保持されると、この余分のエネルギーを減らす方向、すなわち結晶粒界面積を減らす方向の変化が起こる。これが高温における結晶粒成長のメカニズムである。この原理にもとづいて、コンピューターを用いて、この過程を推定することができる。

写真は、200×200の格子点を持つ2次元3角格子について、時間の経過にともなう結晶粒の変化を推定した結果である。各格子点がランダムな方位を持つ状態を初期状態とし、一定の温度に保持したときの各格子点の方位の変化を、モンテカルロ法を用いて追跡し、同一方位を持つ格子点は同一結晶粒に属するとして結晶粒の大きさを表わしている。数字はモンテカルロステップであり、時間の経過に相当する。色の違いは方位の違いを表わしている。結晶粒の大きさが、時間とともに平均的に成長していく正常粒成長の過程が捉えられている。

初期状態や粒成長に影響する因子の値を変化させてこのような計算を行い、実験結果と対比することによって、各因子の最も確かな値を推定したり、粒成長に及ぼす各因子の影響度を議論できる。結晶粒の大きさは、強度や靭性など鉄鋼材料の主要な特性に影響を与えていることから、これを支配する要因を明らかにし、制御する方法を確立することは、今後とも大きな開発課題である。