自動車の排気ガスは大気汚染の一因であり、汚染防止のためにさまざまな努力が払われてきた。そのひとつが排気ガスの浄化システムであり、現在の乗用車の排気系装置は図のような部材から構成されている。ガソリンエンジンの排気ガスは冷却されると、アンモニア(NH4-)、硫酸(SO42-)、塩素(Cl-)、硝酸(NO3-)、炭酸(CO32-)などのイオンを含む凝縮水となる。これらのイオンは極めて腐食性が強く、材料にとっては過酷な使用環境である。また、排気系装置の外面は、寒冷地で使われる融雪剤や海岸地方の塩害に対する耐食性が、全面にわたって要求される。

このため、排気系装置のマフラーより下流側では、これらの腐食性イオンを含む凝縮水による内面腐蝕と塩害による外面腐蝕に十分耐える耐食性を持っていなければならない。ここには主として、クロムを11%以上含む低炭素高クロムフェライト系ステンレス鋼が用いられる。また、マフラーよりエンジン側に近い部材は、走行中773K(500℃)程度の高温になるので、耐酸化性が必要となり、最も高温になるエキゾーストマニホールドではさらに高温強度や熱疲労強度も要求される。これらの上流側の部分には、主として高クロム系ステンレス鋼が用いられている。この結果、排気系装置の寿命は飛躍的に向上した。

以上のような耐食性向上のための努力に加え、排気系装置全体の軽量化による経済性の向上が必要であり、この目標に向けて現在も開発を続けている。