電気の利用が人びとの生活をどれほど豊かにしているか、計り知れないものがある。水力や熱あるいは核のエネルギーを発電機で電気に変換するが、写真は水力発電所で活躍している発電機である。発電機の固定子(ステーター)や回転子(ローター)の鉄心には電磁鋼板を使用している。

発電機、モーター、変圧器などの電気機器は電気と磁気の相互作用を利用している。この相互作用を効果的に利用するためには、磁束を効率的に閉じ込めることのできる材料(このような材料は磁界中で高い磁気誘導を有し、強磁性体と呼ばれる)が必要である。磁界の中に置かれた材料の磁束密度の最大値は、飽和磁束密度と呼ばれ、材料固有の値である。常温で強磁性を示す元素は、遷移金属に属する鉄、ニッケルおよびコバルトであり、これらの中でも鉄は2.15テスラーという最大の飽和磁束密度を持つ。

強磁性体が交流磁化されるときには鉄損と呼ばれるエネルギー損失を生じる。鉄損には2種類あり、それらは鉄の中の磁区の移動によって生じる履歴損失と、交流磁束により鉄中に渦電流が誘起されて生じる渦電流損失である。電磁鋼板には大きい飽和磁束密度とともに、低い鉄損が要求される。鉄は飽和磁束密度は大きいが、電気抵抗が小さいために渦電流損失が大きい。1889年に英国のハッドフィールド(Hadfield)は、鉄に珪素を添加すると、電気抵抗が上がり、鉄損を低下させることを発見した。また、その含有量が6.5%までは、磁歪と結晶異方性エネルギーが低下する。結晶方位制御により飽和磁束密度を高め、珪素の添加により電気抵抗を高くするのが電磁鋼板開発技術の要であった。しかし珪素含有量が増加すると飽和磁束密度と加工性の低下が著しいため、この両者をあまり劣化させずに鉄損を十分下げることのできる約3.2%珪素を含有する鋼が電磁鋼板として最も多く使用されている。