鉄鋼材料には、用途や使用条件に応じて独自の特性が求められる。特性を支配する金属学的要因が明らかになり、その要因を制御する製造技術が進歩することによって、特性の向上が実現してきた。そのような例のひとつに軸受鋼がある。

軸受は、自動車をはじめとする多くの機械や装置の回転軸を支える部分に用いる。その構造は鋼球やローラーをはさんだ内輪と外輪とから成っており、すべり摩擦をころがり摩擦に変えることで摩擦が減少する。

図は軸受の寿命と鋼中酸素量の関係を示している。ある荷重下での軸受の寿命は、内・外輪あるいは鋼球の表面に、ころがり接触の繰り返しによる疲労はく離(フレーキング)が発生するまでの総回転数で表わす。破壊は一般に確率現象であるほか、軸受寿命試験では、輪と球の表面の粗さ、潤滑の状況などによって、試験片ごとに結果に大きなばらつきが生じる。そのため、一定の条件で多くの試験片について試験し、10%の破損確率に相当する回転数を寿命としている。

図のように、鋼中の酸素量が10ppmから5ppmに減少すると、すなわち酸化物系の非金属介在物の量が約半分に減少すると、軸受寿命が実に一桁も改善される。約5ppmの同一酸素量であっても寿命が変動するのは、酸化物の大きさや組成に差があるためであり、硬いアルミナ系の酸化物や30マイクロメートル以上の大型酸化物がとくに有害とされている。軸受鋼の寿命は、非金属介在物の量を示す清浄度に大きく依存している。このため軸受鋼の精錬では、あとで述べるように、超高清浄度目標を達成するために2次精錬を十分に活用するほか、非金属介在物の巻き込みや溶鋼の再酸化を極力防止する操業を行う。その結果、現在酸素濃度の最も低い鋼では、3〜6ppmという値が工業的に得られている。このような低酸素化とともに、大型介在物を減らすことにより、20ppm程度の酸素量の鋼に比べて、軸受寿命は30倍近く延びている。